【はたらくをかんがえる】コメディーで生きていく・後編

後編であります

「小心者=些細なことにもビビッドに心ふるわせる、感受性と想像力ゆたかな愛すべき人々」をコンセプトに、劇場演劇という枠を超えて、ライブハウス・劇場・クラブ・路上・お祭りなど幅広い場で活動をしている小心ズのヤノミさん。前回に引き続きお話を伺いました。

コメディに込めた思い

—パフォーマンスって色んなアプローチがあると思うんですけど、ヤノミさんがコメディーを選んだ理由って何かあるんですか?

「コメディは「許し」だと思っているんです。
日常生活では否定されがちな、人間のダメさや愚かさ、迷惑なところや怒りなんかも、コメディの世界では笑いになる。
笑うことで人間というものをまるごと許してしまえる、そういう力がコメディにはあると思います。
実際の社会ではシャレにならない出来事とか、笑えないようなとんでもなく厄介な人とかいるでしょう?
でも舞台では、そういう人たちも出来事もみんな、笑える。みんな生きていていいし、むしろ魅力的。」

—そんなテーマを持ってやってるとは知りませんでした!ヤノミさんの作品は、忘れかけていた何かをそっと思い出させるというか、大げさじゃなくて、そっと大事なことを思い出させる何かがあるとは思っていましたが。

「ありがとう!自分の作るものは観客の心にちょこっと触れるイメージなのです(話しながら実際に私の肩を軽くつつく)。売れている、例えばみんなが感動した!って涙するようなパフォーマンスは、後ろからギュッと肩を抱きしめて泣いていいんだよ!というイメージかな。
そんなシチュエーション日常ではなかなかないし、そんなことされたらそりゃ泣くでしょう(笑)
エンターテイメントは非日常だから、それでいいし、観に来る人たちもその非日常感にお金を払っているところもある。泣きたくて、泣くためにそういうものを観る場合もあると思います。
私の創るものは、そこまで大々的な何かではなくて、もっとすごく些細で地味だから、ザ・エンターテイメントを求める人たちにはハマりにくいところがあるかもしれないですね。
でも、その些細でくだらない「トン」っていう触れかたに、思った以上に反応してくれる繊細な人たちもいっぱいいてくれて。小心ズのお客さんは、日本でも外国でも驚くほど優しくて、こまやかです。

作品の規模や内容が派手じゃない分、衣装やメイクを目立つようにして、特に海外ではビジュアルで宣伝してきました。」

作るだけじゃなくプロデュース能力も必要

—では売れるためには非日常感や派手さは欠かせない。

「うーん。それだけじゃないと思いますよ。売れるために何が必要なのか、正直私にはわからないです。わかってたらもう売れてる(笑)。私が作品を創るときにはとにかく「自分が観たいもの」を創る。もちろん売れたら嬉しいけど、とにかくまず面白いものを創る。それしかできない〜。

だけど、おさらスープというユニットで海外ツアーをやったときに、to R mansionのはなびちゃんのプロデュース力のすごさを目の当たりにして、それは本当に驚いたし尊敬しました。
私のアイディアをまず心から面白がって尊重してくれた上で、それを具体的によりわかりやすく、ポップに、明確に表現する方法を一緒に考えてくれて、その技術も彼女は持っていたんです。
これまでは一部の人たちにしか伝わっていなかった自分の表現が、はなびちゃんの手を借りるともっと大勢の人たちに伝わる実感がありました。
ツアーが始まってからも、ラストシーンを大幅に変更したりもして。そうやって毎回毎回ブラッシュアップしていったら、スタンディングオベーションはもらうわ、ソールドアウトするわ、追加公演はもらうわ、ツアーの最後にはモントリオールでこれまでカナダ以外のアーティストが受賞したことないという最高賞までもらえたのです。
おさらスープの作品の設定やストーリーは私が中心で考えたけれどプロデュース能力が高いはなびちゃんと一緒にブラッシュアップしていなかったら、あんな大きな賞をもらうことはできなかったと思うんです。売れるもの、というか「より広く伝わるもの」にするためには、プロデュースする力が必要だと思います。」

—ラストシーンをやめるという決断って結構な覚悟がないと出来ないことじゃないですか?しかも作っている途中じゃなくて、考え抜いて出来上がった後だし、変えたからって成功するとは限らない。私だったら「後2ステージくらい少し様子を見てから考えよう」とか言っちゃうかもしれないです。

「それ、周りの人からよく言われるんですよ。ヤノミは手放すことや新しいことに手を出すことを恐れないって。
これは高校時代にカヌー部の監督から「自分のフォームは自分で見れない」と指導されたことが影響してると思います。自分では自分の漕ぎ方のクセを見ることが出来ないから、見ることができる他の人のアドバイスは素直に聞きなさいって。そういう見てくれる人の意見は取り入れようという姿勢が今も自分の中に息づいているのだと思います。
無言劇だけじゃなくて、スタンダップコメディにチャレンジしたのも周りの意見があったからですし。」

—結婚式を題材にしたスタンダップコメディ、めっちゃ面白かったです!

「ありがとー!あれも何人もの友達から「ヤノミは喋りが面白いから黙ってるなんてもったいないよ。」「喋ったらもっとウケるよ」って言われて、スタンダップをやっている清水宏さんからも「ヤノミちゃんはスタンダップやったらいいよ!向いてるよ!」って言われたことがきっかけなんです。実際やってみたら好評で、自分もスタンダップ面白い!って思いました。」

—これからやっていきたいことってなにかありますか?

「まずは売れたい。アーティストとしての活動だけで食べていけるようになりたいです。
それと、もう一つは海外のアーティストを日本に呼びたいです。フリンジでたくさんの素晴らしい舞台を見て、素晴らしいアーティストと出会ったんですね。そういった人達を日本に呼んで、一緒にツアーとか回りながらたくさんの人に見てもらいたいって思っています。
去年も大分舞台芸術フェスティバルに合わせて九州ツアーを組んだ時、望ノ社(カナダ人と日本人による国際パペットカンパニー)と一緒にまわったんですけど、ああいった感じの事をもっとやりたいと思っています。」

コメディーのもつはたらきとは

パフォーマー、エンターテイナーとして生きていく。

どこか遠く違う世界のように感じていた世界が、すこし近くに感じることができたインタビューでした。

信念をもち、続けていくということ。
柔軟であること。
作品も自分自身もブラッシュアップし続けること

どんな業界ではたらいていても共通の大切なことだと思います。
忘れずに活かしていきたいです。
そして

コメディーの持つ「笑い」と「許し」。

芸能や芸術は、個人的なものというか自己表現というイメージが大きいけれど、
実はとても社会的で。人々が日常感じる生きづらさをそっと軽くしてくれるそんな
「はたらき」があると思います。
やはり生きていくのにコメディーは不可欠だと実感させられるインタビューとなりました。

なんて文字で伝えられるのはここまで。是非見て実際に感じて欲しい。

というわけで、ヤノミさんの出演する舞台「にんぎょひめ」が8月にあります。
本日6月3日から先行予約が始まりますので是非こちらをチェックしてみてくださいね(急な宣伝)!

それではまた来週。

後記

今回話を聞くなかで、ヤノミさんの中には
「良くも悪くも、些細であっても、感情が動いたことをなかったものにしたくない」
という考えが根底にあるように思いました。

それは作品にも現れていますし、どんなひどい書き込みでもスルーせず、丁寧に返事をしてしまうところにも現れていると思います。
そして、その考えが最も現れていると思うのが、小心ズのブログ「小心記」です。
国内外でのツアーにおける素晴らしい出会いや体験、公演に向けての稽古についてだけでなく、とんでもないトラブルや自身の悩み・葛藤が綴られています。

エンターテイナーたるもの、夢を与える立場なので自身の悩みや葛藤など発信してはならぬ、と言われることもあるようです。

私は面白いものが好きで見に行っている、ただの観客なので、業界のことはわかりません。
何が正解で何がタブーなんていうこともわかりません。
けれど、綺麗事だけで固められた人よりも、喜びも葛藤も恐れも丸ごと見せてくれる人が魅力的だと私は思います。
そして、そんな姿を見せてくれるヤノミさんは生粋のエンターテイナーだと思うのです。

これからもヤノミさんの生み出す作品がとても楽しみです。

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